「冷蔵庫を何度も開けて中を全部出してしまう」「夜中に音がして見に行くと、食材が床に散らばっていた」——。
認知症のある家族と暮らしていると、こうした“冷蔵庫をあさる”行動に直面することがあります。介護者にとっては、衛生面や食品の無駄、電気代の問題、誤飲などのリスクが高く、深刻な悩みのひとつです。
しかしこの行動には、単なるいたずらや記憶の混乱だけでなく、「安心したい」「食べ物を確保したい」「居場所を探したい」といった心理的背景が隠れていることもあります。
この記事では、認知症の人が冷蔵庫をあさる理由を深く掘り下げつつ、家庭で実践できる具体的な7つの対策を紹介します。本人の尊厳を守りながら、家族のストレスも軽減できる工夫をぜひ取り入れてみてください。
認知症の人が冷蔵庫をあさる行動とは?
“冷蔵庫をあさる”という行動にはさまざまな形があります。
- 食べ物を引っ張り出して並べる
- 食品以外のものを詰め込む
- 何度も開け閉めを繰り返す
- 夜間に突然冷蔵庫を開けて中を探す
本人には悪気はなく、「ごはんがあるか確認したい」「安心したい」「何かを探している」といった目的を持って行動していることも多いです。
そのため、ただ止めさせようとすると混乱や怒りにつながり、かえって行動がエスカレートする場合もあります。
冷蔵庫をあさる理由|心理・認知機能の変化によるもの
以下のような理由が組み合わさって、「冷蔵庫をあさる」行動が現れます。
1. 記憶障害による確認行動
「もう夕飯は済んだ?」という記憶が曖昧になると、繰り返し冷蔵庫を開けて確認する行動が増えます。
2. 不安や孤独感
家族が外出していたり、自分が置いていかれているような感覚から、「何かを探す」行動が冷蔵庫をあさることにつながります。
3. 安心したい・自分の居場所を確認したい
冷蔵庫=食べ物=安心という関連性から、冷蔵庫を何度も開けて“安心できる材料”を探している場合もあります。
4. 自主性を保ちたい欲求
「自分で管理したい」「自分で取り分けたい」といった気持ちが背景にある場合もあり、制限されると反発につながることも。
家庭でできる認知症の冷蔵庫対策7選
1. 視覚サイン(貼り紙・写真)で落ち着きを促す
冷蔵庫に「ごはんはもう食べました」「おやつはテーブルにあります」など、優しい言葉の貼り紙を貼ると安心感につながります。
● 工夫ポイント:
- 本人が好きな家族写真や料理の写真と一緒に貼ると効果的
- 「ダメ」ではなく「もう準備してあります」と伝える文言にする
2. ラベル管理と収納整理で“見える化”
冷蔵庫内をカテゴリー別に整理し、ラベルや色分けを使うことで、本人が内容を理解しやすくなります。
● 具体例:
- 「今日食べるもの」「食べないもの」などを色分け
- 透明タッパーやボックスで中身が分かるようにする
3. 本人専用スペースや小型冷蔵庫の導入
冷蔵庫の一部を「○○さん用コーナー」にするか、小型の冷蔵庫を用意して「これはあなたの冷蔵庫だよ」と伝えることで、満足感と安心感が得られます。
● メリット:
- あさる回数が減ることがある
- 自主性を尊重しつつ行動を誘導できる
4. 開けっぱなし防止センサー・音声メッセージ
市販のアラーム機能付きセンサーを使えば、一定時間開けっぱなしの場合に警告音が鳴ります。
また、開けたときに音声で「冷蔵庫は閉めてください」と優しく促す機能も有効です。
5. 誤飲・誤食を防ぐロック付きボックス
冷蔵庫内の薬品、調味料、生ものなどは鍵付きボックスで管理しましょう。
特に食中毒や誤飲リスクがある物は、本人の手が届かない場所に。
6. コンセント隠し・配線保護で誤操作を防止
「冷蔵庫がうるさい」と感じてコンセントを抜いてしまうケースも。
コードを家具で隠したり、カバーで保護して抜けないようにするのも有効な対策です。
7. キッチン全体への対策(ゲート・扉)
冷蔵庫の制限だけでなく、キッチンへの立ち入りを制限することで、全体的な誤操作リスクを減らせます。
ベビーゲートや突っ張り式の簡易扉などが便利です。
“触らせない”ではなく“触っても安全”な環境へ
完全に冷蔵庫を触らせないようにするのは、本人の不安や反発を強めることもあります。
大切なのは、「触っても問題ない状態に整えること」。
誤飲のリスクがあるものや腐りやすい食材を整理し、触っても安心な物しか置かないようにすれば、本人も家族もストレスを減らせます。
また、「冷蔵庫に触れること=安心感につながる」場合もあるため、完全に排除するより“本人の居場所”の一部として取り込む方がうまくいくことも多いのです。
よくあるQ&A
Q. 冷蔵庫に貼ったメモを剥がされてしまいます
A. フォトフレームにメモを入れる、マグネット付きのクリアファイルを使うなど、物理的に剥がしにくい方法がおすすめです。
Q. ロックを嫌がるときはどうすれば?
A. まずはロックせず、本人専用スペースを設けて「自由に開けていいエリア」を作る方が反発が少なくなります。
Q. 夜中のあさり行動が多くて困っています
A. 夜間の徘徊・不安行動の一環である可能性もあります。寝室に安心できる飲み物やお菓子を置く、冷蔵庫前に動作センサーライトを設置するなどで改善する場合があります。
まとめ|冷蔵庫をあさる行動への理解と対策で安心な暮らしを
認知症のある方が冷蔵庫をあさる行動は、ただの困りごとではなく、本人なりの目的や感情があって起こっているものです。
無理に止めるよりも、「触っても問題のない環境づくり」「本人の気持ちに寄り添ったルール設定」を意識することで、介護する側の負担もぐっと軽減されます。
最後に、実践のポイントをおさらいしましょう:
- 冷蔵庫に優しい貼り紙+写真で安心感
- ラベルと整理で“見える化”
- 専用エリアや小型冷蔵庫で自主性を尊重
- センサーやアラームで誤操作防止
- ロックやゲートで安全確保
本人と家族、双方が穏やかに過ごせるように。冷蔵庫は、生活の中心としての“安心装置”にもなり得ます。少しの工夫で、毎日の暮らしが大きく変わります。