認知症のあるご家族に「水道を止めて」「火を消して」などの行動を促すために張り紙を使っている方は多いのではないでしょうか。ですが、その張り紙、本当に“見えて”いますか?
文字の内容だけでなく、張り紙の「色」が行動の誘導や安心感に大きく関わってくることをご存じですか?
この記事では、「認知症の方に伝わりやすい色とは何か」「どんな色を避けるべきか」「色と組み合わせて効果を高める工夫」など、認知症ケアにおける“色”の活用術を詳しくご紹介します。
認知症と色覚の変化|高齢者に見えにくい色とは?
加齢や認知症によって、視覚機能や色彩識別能力は徐々に低下していきます。特に以下のような傾向があります。
- 青・緑・グレー系が見えにくくなる
→ 波長が短い色(寒色系)は、白内障や黄斑変性の影響で判別しづらくなることが多い。 - 視野が狭まり、視点移動が遅くなる
→ 目立つ場所にあっても、気づくまでに時間がかかる。 - 色のコントラスト(明暗差)が重要になる
→ 背景と文字の明度差が小さいと読みにくくなる。
このため、張り紙は「色そのものの選択」だけでなく「背景・文字とのコントラスト」が重要になります。
張り紙におすすめの色とその心理的効果
色 | 効果・意味 | 張り紙例での活用 |
---|---|---|
赤 | 注意・警告・即時行動を促す | 「火を消して!」「水道を止めて」など重要な行動の促しに最適 |
黄色 | 注意喚起・目立ちやすさ・危険回避 | ドア・玄関の徘徊防止メッセージや安全確認の張り紙に向く |
オレンジ | あたたかさ・親しみ・行動への動機づけ | トイレ・食事・服薬など、穏やかに促したい場面で有効 |
白地+黒字(太文字) | 視認性重視・コントラスト高 | 日常的な確認事項(例:忘れ物チェック)などに |
黒背景+白文字(太字) | 夜間・光の少ない場所で見やすい | トイレの入り口や廊下に最適。反転文字は目立つ |
ポイント:
色は“目立てばいい”のではなく、「行動と気持ちをどう導くか」を考えて選びましょう。
実践例|場面別に最適な張り紙の色を選ぶ
● 水道・ガス・火の元
→ 赤・黄色の背景に白or黒文字で
→ 「火の元注意」「水道止めて」は強めのインパクトが有効
● 玄関・徘徊防止
→ 黄色×赤文字や黒背景×白太文字
→ 「夜は外に出ません」「おやすみなさい」のようにやさしめの文もOK
● トイレ・洗面所の動作促し
→ オレンジや白+イラスト付き
→ 「水を流しましょう」「手を洗いましょう」など柔らかく親しみのある表現が効果的
● 日常的な注意・習慣化
→ 白背景+黒字、できれば太文字で読みやすく
→ 「鍵を持った?」「薬飲んだ?」などチェックリスト的に使える
張り紙の効果をさらに高める色+αの工夫
- 色だけでなく「形」にも変化をつける
→ 丸・三角・吹き出し型などは認識されやすい - イラスト・写真と組み合わせて記憶に残す
→ 特に“家族の写真+名前”入りは安心感を与える - 触る位置の近くに設置する(視線誘導)
→ ドアノブや蛇口、冷蔵庫の取手など、行動と結びつく位置に貼る - 定期的に色や配置を変える
→ 慣れて見なくなるのを防ぎ、意識のリセットにつながる
避けた方がよい色とデザイン
NG要素 | 理由 |
---|---|
パステルカラー(特に水色・グレー) | 高齢者・認知症の方には視認性が低い傾向がある |
薄い文字・細いフォント | 可読性が低く、読み飛ばされやすい |
イラストだけで文字がない | 内容を誤解されることがある(特に中等度以上の認知症) |
ごちゃごちゃした背景模様 | 情報過多で混乱を招きやすい |
よくある質問(Q&A)
Q. 一番効果が高いのは何色?
A. 行動をすぐに促したい場合は 赤や黄色 が最も視認性が高いとされます。ただし刺激が強すぎる場合は オレンジや白+太文字 などに調整を。
Q. 色覚異常や白内障の人にはどう対応する?
A. 色だけに頼らず、「文字サイズを大きく」「明暗差を意識する」などコントラスト強調と併用するのが有効です。
まとめ|認知症ケアにおける「色」の力を味方にしよう
張り紙は「注意書き」ではなく、生活を支えるコミュニケーションツールです。色の選び方ひとつで、その伝わり方は大きく変わります。
- 赤・黄色・オレンジは特に有効(注意・誘導・安心を演出)
- 背景と文字のコントラストが命
- 行動の前に目に入る位置へ貼る工夫を
- 時間とともに慣れるため、色やレイアウトに変化を加えるのがベター
小さな色の工夫が、日々の安心や事故予防につながります。ぜひご家庭でも“色の力”を取り入れてみてください。